怒れるイカれる男

真っ白で不毛だった頭に再び言葉が帰ってきた。

健康に問題を抱えるようになって、思考、つまり自分自身の声を聞けなくなった。聞こえるのは、体が感じる苦痛や不快感で頭が一杯になり、長らく自らの声が聞こえることがなかった。

抱えていた健康問題は、無理なダイエットからの栄養失調、睡眠障害、うつ病。これらの病は、医師からの診断という訳ではなく、自己診断ではあるが、ほぼほぼ間違いはない。

やっと健康問題を克服して、完全な健康体まではいっていないものの、眠れるようになり、自分の思考、声を取り戻した。

本当に長く辛い経験だった。まともに思考ができず、結果、生産性のあることは何もできずに、大事な月日を何年も浪費してしまった。

これからやっと一歩前に進める。言葉を取り戻したばかりで、かぼそい声で拙く思考するしかできていないが、自分を取り戻したことに意味がある。

不健康になると、人として肉体を持っているだけの、思考能力を失ったロボットになってしまうというのがよくわかった。この自己を封じられるような経験とは、生きていることを認識しながら、思考できない状態で、常に痛みや不快感に意識が占領されており、全ては痛みと不快感の反射で応答する人間になるということだ。

痛みと不快感に支配された人格は、好戦的で怒りっぽくいつも不機嫌で、人から何か直接言われなくても、ちょっとした言動でも苛ついたり、反射的に暴言を吐いたりするアンタッチャブルな人間になっているということである。

この意識が体の不調によって操られるのは、自分の意志ではどうすることもできず、体が反応するがままになってしまうのが、困ったところである。

怒りたくないと思っているのに、何かあると間髪入れず反射的に怒りが沸き起こり暴言、悪態、瞳孔が開き目をギラつかせながら呼吸が粗くなり、最初の反射で出た怒りを、自らで増幅していくから始末が悪い。

心が落ち着くのにかなりの時間を要するし、エネルギーを必要とするので、ここで力を使ってしまうので消耗して、疲れからより一層怒りやすい、何にでも過敏に反応する怒れるイカれる男になってしまうのだ。

怒りやすいのが、体が勝手に反応してしまうということを他者には理解されないので、ただの怒りっぽい人にいかれた人と認定されてしまうのが辛い。

原因が健康問題であるのだから、何かしら対処をしたら、すぐに良くなるかといえば、そう簡単ではない。いろんなことを試してもなかなか改善せずに、長い戦いになる。

専門家の力を借りていれば、もしかしたらもっと短期間で治ったかもしれないが、それはあとの祭りである。

とりあえず、なんとか良い状態になってきたので、揺り戻しが無いように気をつけて生活をしていきたい。