富と欲に取り憑かれた人間たちの愛欲地獄 —— 『色道振分筒』レビュー



【書籍情報】
タイトル:棠大門屋敷 現代語訳 古典好色 色道振分筒
著者:並木行夫(現代語訳)
原作:錦文流(江戸時代・浮世草子)
価格:期間限定100円(税込)※価格は予告なく変更となる場合があります
販売:Amazon楽天Kobo
ジャンル:時代小説、現代語訳古典、怪異譚



こんにちは、レオ・パーソナルです。

今回は、江戸時代の怪異と愛欲が渦巻く古典文学『色道振分筒』の現代語訳版について、現代人の視点からじっくりレビューしていきたいと思います。

この作品、一見すると"好色もの"と構えてしまう方もいるかもしれませんが、正直それだけでは収まりきらない圧倒的な情報量と深さを備えた、とんでもない一冊です。


1. 財が生む怨念、金銀が意思を持ち始める恐怖

物語の冒頭から読者の背筋を凍らせるのが、「財物に宿る恨み」という概念です。

初代・与茂四郎が築いた難波長者・江戸屋の莫大な富は、後継者たちによって使われることもなく蔵に封じられ、やがて金銀そのものが擬人化され、怨念を持ち始めます。

金無垢の尾長鶏、寛永通宝之助らが会議を開き、主人を破滅へと導く策略を巡らせる描写は、ファンタジーというよりも、民俗的なホラーに近い重みがあります。


2. 「煩悩即人生」——色道に堕ちた男の末路

五代目・与茂九郎は、新妻との初夜の失敗をきっかけに、自己肯定感を回復すべく“色道修行”にのめり込みます。

島原の太夫から艶江の芝居役者まで、金と色に酔いしれる彼の旅は、まさに破滅へ向かう誘惑の道。

読んでいるうちに、読者は彼の行動が滑稽であると同時に、どこか切実で、共感すらしてしまう……そんな人間の業の深さに引き込まれていきます。


3. 江戸文化のディテールがすごい

例えば、遊女との「初湯」や「縫初め」、金一両の重みや、太夫・芸者・靭負の位階など、江戸時代のリアルな風俗描写がとにかく細かい。

物語のテンポを壊すことなく、当時の空気感を存分に味わえるのは、訳者・並木行夫の筆力ゆえでしょう。

単なる現代語訳にとどまらず、時折挟まれる解説的な視点も、読者にとって絶妙な道しるべとなります。


4. ただの色話じゃない——怪異と因果が導く地獄

そして何より、終盤にかけて浮上する「角のある女」や「怨霊に導かれた金蔵破り」などの怪異的要素が、物語を一気にホラーの領域へと押し上げます。

それらは決して唐突な演出ではなく、物語全体に流れる「因果応報」の精神を象徴しており、読後には得体の知れない余韻が残ります。


5. 金と色に呑まれた一族の末路

子・与茂三郎(初五郎)は母の面影を求めて、そして父と同じ色の地獄へと堕ちていきます。

騙し、裏切られ、命を落とす彼の運命は、まさに"黄金に憑かれた家系の終焉"。

読後に残るのは、「金とは何か」「欲望に支配されるとはどういうことか」という問い。


おわりに

この『色道振分筒』は、単なるエロやスキャンダルにとどまらず、人間の根源的な煩悩と、金がもたらす因果の恐ろしさを描いた超骨太な古典文学です。

それをここまで読みやすく、かつ現代的な文体で蘇らせた並木行夫氏の手腕も見事。

「古典は難しそう」と敬遠している人こそ、この機会に手に取ってみてほしい——そんな一冊です。

気になる方は、ぜひこのリンクからチェックしてみてください。


次回も、ちょっとニッチだけどクセになる、そんな作品をご紹介します。お楽しみに!

── レオ・パーソナル

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