黄金と忠義が交錯する乱世ドラマ──並木行夫『浪人三国志』レビュー


📘 書籍情報



  • タイトル:浪人三国志
  • 著者:並木行夫
  • ジャンル:歴史・時代小説
  • 舞台:戦国末期・南伊豆 天城山脈
  • キーワード:黄金伝説 / 剣豪 / 野武士 / 忍者 / 策謀 / 忠義と裏切り
  • フォーマット:電子書籍(Kindle)
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隠された黄金と乱世の生き残りたち――『浪人三国志』に潜む濃密な人間模様

南伊豆・天城山脈。春先の光に包まれた山中に、静かに漂う血の気配。
始まりは、ひとつの生首だった。

並木行夫の時代小説『浪人三国志』は、ただの「剣と冒険」の物語ではありません。
それは、戦国の残火の中で、それぞれの「正義」や「忠義」、そして「欲望」を抱えて生き抜こうとする者たちの壮絶なドラマ。
しかも、舞台は南伊豆の奥地。徳川も豊臣も、その余波を潜ませるこの地に、黄金伝説を追う者たちが集い、交錯します。

舞台設定の魅力

本作の魅力はまず、その設定の濃密さにあります。
徳川の天下が固まりつつある時代に、なぜか天城山脈を中心に再び火種が灯る。
そこには、徳川方の密命を受けた忍び豊臣再興を願う残党野伏の群れ、そして、芸人や海賊を装った謎の女たちが登場し、まさに「三国志」のごとき三つ巴の混乱を生み出していくのです。

クセ者だらけの登場人物

登場人物が、またクセ者揃い。
物語の軸となるのは、真田幸村の旧臣にして若き剣客、千洞紅之助。表向きは一匹狼ですが、その剣の冴えと気骨は群を抜いています。

一方、野武士集団を率いる鳴滝の鯉兵衛、熊鷹を使う女芸人花廼家小春、口より毒の回る忍び竜巻風太郎など、それぞれが“ただ者ではない背景”を背負いながら山中でぶつかり合う。

どの人物も「単なる敵」や「味方」ではなく、それぞれに己の使命を持って動いているのがまたたまらない。

スリル満点の戦闘と心理戦

読み進めるうちに、キャラクターたちの関係性がねじれ、裏切り、再構築されていく様子は、まさに骨太の時代絵巻。
と同時に、「誰が本当の敵なのか?」「黄金とは本当に目指すべき宝なのか?」と、読者自身の価値観も揺さぶられていきます。

それから、この物語は戦いの描写が抜群に熱い
剣戟、火縄銃、鷹狩り、含み針、幻術――まるで戦国版『ミッション・インポッシブル』。
誰がどこで何を仕掛けてくるかわからない。命のやり取りの中に、信頼と裏切り、そして時折顔を出す微かな人間愛。
決して「お涙頂戴」ではないけれど、それゆえに胸を打つシーンがいくつもあります。

黄金の向こう側にあるもの

そして、物語の最終盤。
黄金を巡る策略と戦いが最高潮に達するなか、読者は「果たして本当に欲しかったものは何なのか?」という問いに直面することになるでしょう。
その“決着”の描き方には、作家・並木行夫の確かな筆力と、時代小説を超えた哲学的な眼差しが感じられます。


📚 まとめると…

『浪人三国志』は、ただの娯楽小説ではありません。
剣と策謀と欲望が交錯する山中の黄金争奪戦を通じて、
人間とは何に忠義を尽くし、何を裏切るのか? そんな問いかけを、さりげなく、しかし確かに読者に突きつけてきます。

戦国ファンも、冒険活劇好きも、人間ドラマに飢えている読者にも――
これは読んで損のない、骨太のエンターテインメント時代小説です。

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